世界で産業用PCが導入される理由は?スマートファクトリーとの関係を解説
前回の記事では、第4次産業革命(Industry4.0)が全世界で進む中で、世界の潮流と日本の現状が大きく異なってきていることをご紹介しました。
生産設備のPLC制御が中心である日本に対して、制御だけでなくデータの収集・分析といった幅広い用途に対応できる産業用PCの導入が世界では進んでおり、その結果、スマートファクトリー化の差がますます広がっています。
第二回となるこの記事では、世界での産業用PCの導入状況とその理由について、より個別・具体的にご紹介していきます。
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こちらの記事は連載です。ほかの記事は、下記よりご覧ください。
連載【日本の製造業における産業用PC導入の現状と課題】 |
目次
1.産業用PCの導入率はスマートファクトリー化の進行度合いと比例
(1)産業用PCの特徴
産業用PCは製造現場などの産業用途に特化したPCであり、民生用PCと異なる特徴を持っています。産業用PCの特徴を簡単に紹介します。
産業用PCについては、別の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
①長期間安定して使用できる
製造現場においては、機器の変更やシステム変更は容易ではないため、産業用PCは10年以上使い続けることも多くなっています。民生用PCは毎年新しいモデルが出るなどして入れ替わりが激しく、数年経つと古い型式のPCや部品は手に入らなくなる可能性があります。
しかし、産業用PCはモデルチェンジをせず、同じ型式が長期間生産されるため、買い足しや部品交換もしやすく、製造現場で安心して利用し続けることができます。
②長時間連続運転ができる
製造現場のPCは、24時間365日の連続稼働や過酷な環境にも耐えられる頑強さがなければなりません。民生用PCではそのような連続稼働に耐えられないものがほとんどですが、産業用PCは設計段階からその状況に耐えうる仕様で製造されるので、長時間連続運転への対応が可能となっています。
③製造現場での利用に適した機能の充実
産業用PCは、製造現場にある多くの機器と連携して使用することを考慮し、優れたインターフェースを持ったPCが多くなっています。そのため、従来あった複数の機器を1台の産業用PCへ集約して置き換えるといったことが可能です。
また、産業用PCは製造設備の制御だけでなくデータの収集や解析といった様々な用途に柔軟に対応することができます。複数の製造機器からデータを吸い上げて産業用PCで解析をし、製造現場の管理に使用することで、最適化に役立てられています。
(2)産業用PCとスマートファクトリーの関係
世界で産業用PCの導入率が増えている背景には、スマートファクトリー化が密接に関わっています。ここでは、なぜ産業用PCがスマートファクトリー化で求められているのかを紹介します。
また、次の章からは、スマートファクトリー化を主導している国であり、産業用PCの導入が進むドイツと中国に注目して、産業用PCとスマートファクトリー化の関係について詳しくみていきましょう。
①製造現場における汎用性
消費者のニーズの変化が早く、需要変動の激しさや多種少量生産が求められるこれからの時代においては、製造現場も市場のニーズに合わせて柔軟に変化していく必要があります。
制御に特化したPLCのような専用機器に比べて、産業用PCには様々な用途に利用できる汎用性の高さがあるため、製造ラインの変更や複数作業の同時並行などに柔軟に対応することが可能です。スマートファクトリー化には、産業用PCの導入は必要不可欠となってきています。
②エッジコンピューティング
スマートファクトリーの実現のためには、各種製造設備から収集される大量のデータの処理・解析が必要です。ただ、基幹となるサーバ一台にそれを任せてしまうと負荷がかかりすぎてしまうため、リアルタイムな製造業務の妨げになる恐れがあります。
それを解消するために重要なのが、「エッジコンピューティング」の技術です。これは製造設備に近くにある端末でデータ処理と解析を行ってから、上位サーバにデータを送る技術であり、その担い手として産業用PCが注目されています。
産業用PCを各種製造機器と接続し、制御のみでなくデータのリアルタイムな収集と解析も産業用PCが担うことにより、スマートファクトリーの実現が目指されています。
2.ドイツにおけるスマートファクトリー化
(1)インダストリー4.0を提唱したドイツ
ヨーロッパの製造業大国であるドイツは、インダストリー4.0(第4次産業革命)を世界で初めて提唱した国であり、官民一体となってスマートファクトリー化を進めています。
ドイツでは、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー、ボッシュ、BASF、KUKAといった世界を代表する企業はもちろん、変革力と技術力を持ち合わせた中堅・中小企業も国策で支援して、一致団結してスマートファクトリーの実現を目指しており、個別の企業での取り組みが目立つ日本とは大きく異なります。
ドイツでのスマートファクトリー化は、FA機器製造大手であるシーメンスが未来像を示しつつ、既にある製品群を活用して、工場を進化させるソリューションを売り込んで主導しています。
(2)ドイツでの産業用PCの導入状況
スマートファクトリー化を主導するドイツでは、産業用PCの導入も進んでいます。例えば、ドイツのFA機器製造大手であるベッコフは、BMW向けに2030年までに産業用PCとコントロールパネルを合計10万台導入し、製造ラインにおける機械の接続、アクセス制御、データ収集、視覚化などの用途に活用すると発表しています。
※参照:https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1912/02/news041.html
ドイツ国内には他にもシーメンスやPhoenix Contactなどの産業用PCメーカーがあり、スマートファクトリー化に向けた開発と製造を続けています。
(3)ドイツと日本の比較
ドイツはスマートファクトリー化によって製造業の国際競争力を大きく向上させており、日本にとってはベンチマークとなる存在です。しかし、ドイツの製造業にも苦しい時期がありました。
かつてのドイツにも、日本と同じように大手メーカーから提供される図面に基づいて生産を請け負う専門業者が多くありましたが、EU拡大に伴ってそういった下請け業務は徐々にコストの安い中・東欧などの業者に委託されて淘汰が進みます。その結果、ドイツには特殊な専門分野で独自技術を持つ中小企業だけが多く生き残りました。それらの企業はその独自の技術力を元に海外市場に進出し、スマートファクトリー化にも取り組んで成果を上げています。
日本にも同じように独自技術を持つ中小企業が多くあり、ドイツと似た環境であるといえます。日本の中小企業が生産性を向上させ、海外市場においても競争力を得るためには、スマートファクトリー化の推進が必要となるでしょう。
3.中国におけるスマートファクトリー化
(1)中国製造2025を提唱する中国
中国では、2015年に中国政府が発表した「中国製造2025」という方針に従って製造業の改革を進めています。これはドイツのインダストリー4.0と並んで世界の注目を集めている取り組みです。中国製造2025は、10の重点分野と9つのミッション、5つの重点事業を持った国家プロジェクトであり、産官一体で製造業のデジタル化に取り組んでいます。
中国はかつては「世界の工場」と呼ばれ、人件費の安さを目的とする世界各国の企業が生産拠点を中国に持っていました。しかし、近年では人件費の高騰などの要因で徐々に中国離れが進んでいます。また、中国製品は低価格だが低品質というイメージが根強く、それを払拭する必要がありました。
そういった背景を受けて、中国が「製造強国」となることを目指した中国製造2025が提唱されました。5つの重点事業の中には「スマート製造」が含まれており、製造業での設備投資に対して中国政府が支援をし、スマートファクトリー化によって中国製品の国際競争力を高めるという政策が実行されています。
(2)中国でスマートファクトリー化が進む理由
日本の製造業の現状を考えると、中国のスマートファクトリー化は遥かに進んでいます。その理由をいくつかの観点からみてみましょう。
1.新技術の導入がしやすい
日本に比べると、中国は工場設立の波が比較的近年にあったため、新技術の導入がしやすい環境にあるといえます。日本の工場では古い設備がまだまだ現役で利用されていて、それらをデジタル化するのは非常に骨が折れますが、比較的新しい設備の多い中国ではそういった障害がなく、デジタル化がしやすくなっています。
2.IT産業が発展している
現在の中国では、IT大国であるアメリカと並ぶほどにIT産業が発展しています。そのため、デジタル技術の製造業への取り入れがしやすい環境であるといえます。また、エンジニアの数も日本に比べると豊富なため、デジタル技術を扱えるエンジニアが製造業にも流入していることも要因となっています。
3.中国政府による主導
各企業が個別にスマートファクトリー化に取り組んでいる日本とは異なり、中国では中国政府が製造業のスマートファクトリー化を強力に支援しています。
中国製造2025の発表以後、中国政府は金融支援や財政税制支援、スマートファクトリーのコアとなるクラウド、IoT、ビッグデータなどの基盤技術の向上支援などの施策を相次いで打ち出しているため、スマートファクトリー化の進展が早いのだと考えられます。
(3)中国での産業用PCの導入状況
スマートファクトリーを実現するためにIoT機器が活用される中、エッジコンピューティングを実行するための産業用PCも導入されています。
また、IoTに関して、中国政府は工業を含むさまざまな分野の近代化を進める方針を掲げており、2014年には、IoTにまつわる法律や規制の改定などの検討を継続しているという途中経過報告もしています。今後も政府主導でスマートファクトリー化が進められ、その過程で産業用PCの需要も高くなると予想されます。
4.おわりに
今回は、スマートファクトリー化の進む世界での産業用PCの導入について、ドイツと中国を中心に紹介してきました。
日本の製造業・工場は、スマートファクトリー化においては遅れをとっているのが現実です。ドイツや中国のような海外の成功事例に倣い、スマートファクトリー化の一歩として産業用PCを導入することが、日本の製造業が国際的な競争力を取り戻すきっかけとなるでしょう。
次回は、日本において産業用PCの導入が進んでいない現状とその原因についてまとめていきたいと思います。
連載【日本の製造業における産業用PC導入の現状と課題】 第一話:製造設備のスマート化、世界の「常識」と日本の「非常識」 第三話:日本に産業用PCが導入されない理由は?3つの視点から解説 第四話:産業用PCが実現するDX!製造設備のスマート化でのメリットを紹介 |
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