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労働災害 製造業
労働生産性向上に関する記事

製造業における労働災害|統計と対策、KY活動、ヒヤリハット

厚生労働省の統計によると、日本で発生する全ての労働災害のうち製造業が占める割合は最も高く、事故の件数では全産業の約20%を占めています。
製造業の現場では、多くの機械や車両が使われている中で大勢の人が勤務しています。そのため、他の産業よりも労働災害が発生しやすい環境と言わざるを得ません。
さらにこれまで高い技術力で日本のモノづくりを支えてきた熟練工の高齢化が進み、少子化に伴って製造業を志す若い世代は減り、その結果、派遣社員や外国人労働者の増加など、労働環境の変化が急速に進みました。
このような状況の中では、製造業における労働災害の対策も時代に合わせて進化していかねばなりません。

この記事では、製造業における最新の労働災害の傾向や、安心して働ける職場環境を作るための安全対策について、具体的な事例なども交えてご紹介します。

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1.製造業における労働災害の発生状況

労働災害 製造業

まず、令和4年度の厚生労働省統計から、製造業における労働災害の状況を確認してみましょう。
引用:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33256.html

(1)労働災害による死亡事故の件数

令和4年に日本全国で発生した労働災害による死亡者は、全産業の合計数として774人にのぼります。そのうち製造業における死亡者は140人で、分野別では3位、比率としては全体の18%程度でした。なお、分野別の順位は1位が建設業の281人、2位が第三次産業の198人です。

次に、前年度(令和3年)の労働災害による死亡者数の統計データと比較してみましょう。
令和3年度の労働災害による死亡者は、全産業の合計数として778人で、そのうち製造業における死亡者数は132人でした。

つまり、労働災害による死亡者数は、全産業の合計数では4人減少したものの、製造業としては9人増加という結果となっています。

(2)死亡事故と4日以上の休業を伴う事故の合計数

次に、4日以上の休業を伴う事故も含めた形で統計データを分析してみましょう。
令和4年度における、労働災害事故による死者と4日以上の休業を伴った負傷者の合計数は、全産業で132,355人、うち製造業では26,694人でした。事故の合計件数としては、製造業は全産業の分野別でトップで、約20%を占めています。

また、死亡者のデータと同様に、前年度(令和3年)の統計データと比較してみます。
令和3年度の、労働災害事故による死者と4日以上の休業を伴った負傷者の合計数(新型コロナウイルス感染者を除く)は、全産業では130,586人で、そのうち製造業は26,424人でした。全体および製造業の発生数はともに横ばいで推移していることがわかります。

(3)製造業の傾向

では、製造業における労働災害の統計結果から見えてくる具体的な原因は、どのようなものだったのでしょうか。

まず、死亡事故について令和4年の統計を確認したところ、1位は機械への挟まれ/巻き込まれ(56人)、2位は転落(23人)、3位は崩壊・倒壊(10人)、4位は飛来・落下(9人)火災(9人)が同数で並ぶという結果となりました。

製造業の労働災害 統計

死亡事故原因1位の機械への挟まれ/巻き込まれは、全産業の死亡事故件数115件のほぼ半数近くが製造業によって占められています。この理由には、やはり多くの動力機械が存在する製造現場での作業という特徴が現れていると言えるでしょう。死亡事故原因2位の転落も、機械への挟まれ/巻き込まれと同じく事故発生数のランキングでも上位に入っているため、製造現場における高所作業の実態について注目する必要がありそうです。
また、3位の崩壊・倒壊、4位の飛来/落下は、労働災害の発生件数は少ないものの、起きてしまったら死亡事故を含む重大な結果を招く可能性が高いということがわかります。

同様に、死者と4日以上の休業を伴った負傷者の合計数の統計から主な事故種類を確認しました。やはり事故原因の1位は挟まれ・巻き込まれ(6416人)です。2位以下は死亡事故の統計とは異なり、2位が転倒(5757人)、3位が動作の反動・無理な動作(2922人)、4位が墜落・転落(2867人)、5位が切れ・こすれ(2330人)という順位になっています。

製造業の労働災害 統計2

事故件数で上位に入った転倒、動作の反動・無理な動作、切れ・こすれについては、いずれも作業者の不注意や作業自体によって生じる身体への負担などが原因なので、作業方法の改善や省人化といった方向の改善によって対策できるかもしれません。

【参考記事】

(4)外国人労働者の労働災害の状況

外国人労働者の状況を見てみましょう。

令和4年の厚生労働省の統計によると、全産業における外国人労働者の労働災害事故(4日以上の休業者数)は4,808人、うち製造業が2466人と全体の過半数を占めました。また、全産業を通しての傾向として、最近10年で外国人の労働災害の件数は約2倍に増えており、対策を急ぐ必要があります。

外国人労働者の労働災害事故の原因は、以下のような要因によるものが発生しています。
・日本語の理解が乏しかったため危険情報のコミュニケーションが不十分だった
・機械のマニュアル類が日本語しかなく、取り扱いに対する十分な知識がなかった
・雇用先の企業が外国人労働者への適切な安全教育を怠っていた

(厚生労働省ウェブサイト 職場のあんぜんサイト 労働災害事例集より https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_FND.aspx

また、労働災害については以下の動画も参考になります。

引用:機械01 第1章 労働災害とは(1.労働災害とは2.製造現場に潜む危険3.労働災害の発生状況4.労働災害の事例)

引用:食料品製造業における労働災害防止

2.製造業における労働災害の原因と対策

製造業における労働災害の原因と対策

製造業における労働災害について代表的な事故の種類をいくつか紹介しましたが、ここからは、労働災害が発生する原因について考えます。

個々の労働災害の原因を分析した結果、「何らかの不安全な状態(物的要因)」または「何らかの不安全な行動(人的要因)」が原因となったケースはそれぞれ90%前後に達し、さらに、この2つが重なりあったケースは全体の85%以上を占めているということが明らかになっています。 (図1参照)

製造業における労働災害の原因と対策1

(図1)

また、この「不安全な状態」「不安全な行動」が発生する原因は「安全衛生管理上の欠陥」があるためと考えられています。

製造業における労働災害の原因と対策2

(図2)

※図1、図2の出典「労働災害原因要素の分析」(2013年、厚生労働省)

この事実から、労働災害の防止には製造現場の「安全衛生管理上の欠陥」を改善することによって「不安全な状態」と「不安全な行動」を発見し、取り除くことが有効と言えます。
ここでは、事故の件数が上位である「挟まれ/巻き込まれ」と「転倒」への原因分析と対策を例に挙げて説明します。

(1)挟まれ/巻き込まれ事故への対策

まず、「不安全な状態」(物的要因)に注目してみましょう。製造現場において、挟まれ/巻き込まれ事故が発生する可能性があるのは、動力機械と人の接点となりうる場所です。
このような場所において事故の原因となる「不安全な状態」を防ぐには、以下のような対策が考えられます。
・動力機械の可動部や回転部に人が直接触れることが無いように覆い・囲みを設ける
点検・清掃時には動力機械の電源OFFを徹底する
・動力機械のインターロック機能を活用する(インターロック機能:機械を稼働させる際に、誤操作や確認不足によって正しい手順以外ではない操作が行われたり、正常な運転から逸脱した時、自動的に機械の運転が安全に停止する機能)

また、「不安全な行動」(人的要因)を防ぐための例として、作業員の側では以下のような対策が有効です。
・機械に服が巻き込まるのを防ぐため作業服・帽子を正しく着用する
・回転している加工物や機械の可動部に近づかない、手を出さない
・ボール盤や旋盤といった巻込みの危険がある回転機械では手袋を着用しない
・機械や安全カバーの状態が一箇所でも通常時と違う場合は作業を中断する

しかし、このような対策をとっても労働災害のリスクを完全に取り除くことが難しい場合は根本対策として、製造ラインの省人化を検討するという方法もあるかもしれません。

【参考記事】

(2)転倒事故への対策

同じように「転倒」事故の原因となりうる「不安全な状態」は、具体的には以下のような状態が考えられます。
・床の濡れや汚れ(特に油分、粉、砂など)
・歩行場所に物が置かれている
・床面に凹凸・段差がある、床面が滑りやすい
・職場の動線が複雑でカーブや段差の昇り降りが多い
・冬期の凍結

このような状態に対しては、4S活動(整理・整頓・清掃・清潔)という職場環境の改善が有効です。具体的には、このような対応となるのではないでしょうか。
・ 床面の濡れや汚れ(油や粉等)はこまめに掃除する(冬期の凍結対策としても有効)
・通路に物を置きっぱなしにしない、させない
・床面の凹凸や段差等を解消する、滑り止めを設置する
作業動線を簡素化する(人と物だけでなく、人と人が衝突する可能性を下げる)
・転倒危険場所にステッカー等で注意喚起
・曲がり角にはミラーを設置し、衝突を防ぐ

また、転倒事故の原因となる「不安全な行動」を避けるためには、以下のような対策が挙げられるのではないでしょうか。
・転倒しやすい作業方法の見直し
・焦らず、時間に余裕を持って行動する
台車を導入し、作業の中で直接荷物を持たない
・適正な休憩時間を確保する
熱中症対策(室温管理、クーラーファン付き作業服、水分・塩分補給など

3.製造業における労働災害防止のためのKY活動

製造業における労働災害防止のためのKY活動

時に労働災害は、予想もできなかったような原因で発生することがあります。このような事故を防止するためには、想定しやすいリスクへの対策だけでなく、さらにきめ細かい目で現場に潜む危険を先取りして対策しなければなりません。

(1)KY活動とヒヤリハット

労働災害を未然に防ぐため、現場レベルの改善活動として広く行われているのが「KY活動」です。Kは「危険」、Yは「予知」の意味(頭文字)です。つまり事故が起こる前に危険を予知し、その芽を摘むことが KY活動の目的です。

具体的には、職場内で定期的に「どんな危険が潜んでいるか」を話し合い、過去の災害事例なども参考にしながら、注意すべきポイントと対策のためのルールや行動目標を決めます。
さらに、それらのルールを一人一人が実践し、安全衛生を尊重しながら業務を進めるという活動です。

た、災害や事故には至らずには済んだけれど、そうなってもおかしくない事例を「ヒヤリハット」と呼びます。労働災害の防止のためには、事故そのものだけではなく、ヒヤリハットの事例も職場内で共有し、再発防止のため対策することが重要です。

具体的な事例については、厚生労働省のウェブサイト「職場のあんぜんサイト」に労働災害事故やヒヤリハットの事例集がありますので、ぜひ参考にしてみてください。

(2)ハインリッヒの法則

KY活動やヒヤリハットに関連し、「ハインリッヒの法則」または「1:29:300の法則」というものがあります。

これは、1件の重大事故には、軽微な事故が29件も起きており、さらにその裏には事故にまでは至らなかった不安全状態、不安全行動、つまりヒヤリハットが300件も隠れている、というものです。
このハインリッヒの法則は、1931年にアメリカの損害保険会社の安全技師、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒにより提唱されました。彼の書籍は後に世界中で労働災害防止のバイブルとなったため、現在でも広く活用されています。

ハインリッヒの法則からは、重大事故を防ぐためには何よりも日頃からのKY活動の積み重ねにより、軽微な事故や事故に至らなかったヒヤリハットへ対策する重要さを学べるのではないでしょうか。

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