LiDARセンサーとは?原理や構造、スマホやロボット等への活用
LiDARセンサーは、レーザーを用いて対象物との距離を広範囲で測定し3次元情報を得ることのできるセンサーです。LiDARセンサー自体は1960年代から地質学や気象学で利用されてきた歴史あるセンサーですが、近年の自動運転技術やドローンの発展、スマートフォンにも搭載されたことで改めて注目されています。
本記事では、LiDARセンサーの基本的な原理や構造、活用例などを解説しています。
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目次
1.LiDARセンサーとは?
LiDAR(ライダー)センサーとは、Light Detection And Rangingの略で、赤外線レーザースキャナーやレーザーレーダーと呼ばれることもあります。
LiDARセンサーは光センサーを利用して対象物との距離や方向を測定するセンサーの1つです。レーザー光を照射し物体に当たって反射してくるまでの時間や周波数から物体との距離や方向を測定します。1度のレーザー照射で得られる情報は1点のみですが、レーザーを周囲にくまなく照射することで、点描のように3次元の情報を得られます。
カメラを用いた画像情報では、対象の色や形を測定することはできてもあくまで2次元の情報しか得られません。また、超音波センサーや電波を用いたレーダーでも対象までの距離を測定することはできますが、LiDARセンサーのような高精度の3次元情報を得ることは出来ないため、高精度の3次元情報を得るためにLiDARセンサーは必要不可欠です。
【参考記事】
【参考動画】
引用:iPhone12 ProのLiDARセンサーは動画撮影に活用出来る?
引用:【自動運転】高感度光センサーSPADとリモートセンシング技術LiDARが自動運転に使われる未来
2.LiDARセンサーの測定原理
ここでは、LiDARセンサーの主要な測定原理である、以下の2種類の測定原理について解説します。
●レーザーを照射してから対象物に当たって反射して戻ってくるまでの時間を測定する方法
●戻ってきたレーザーの周波数から対象までの距離を測定する方法
詳しく見ていきましょう。
(1)ToF方式
ToF方式はTime-of-Flightの略で、レーザーを射出してから反射して戻ってくる時間を測定し、対象との距離を測定する方法です。
例えば、レーザーを照射してから戻ってくるまでの時間が70n(ナノ:1秒の1000000000分の1の時間)秒だった場合光の速度が約30万kmなので、往復した距離が約20mと計算できるので対象物との距離は10mと解ります。
ToF方式は長距離の測定が可能な点がメリットとして挙げられます。また、構造がレーザーを射出する部品と受光する部品でシンプルなので、センサーが小型化でき設置部位の自由度が高くなる点もメリットといえます。
(2)FMCW方式
FMCW方式はFrequency Modulated Continuous Waveの略で、常に周波数を変化させたレーザーを照射して、どの周波数を何秒前に照射したかという情報と戻ってきたレーザーの周波数を何秒に受光したかを比較することで、距離を測定します。
また、FMCW方式は周波数を測定しているので、ドップラー効果を用いて対象物の速度も測定することができます。
ドップラー効果とは、動いているものに反射した波の周波数が変化する現象で、周波数の変化から速度を測定することができます。
FMCW方式のメリットは、マイクロメートル単位での測定精度を得られることや、光の強度だけでなく周波数まで測定しているので、照射した光か外部から混入した光かの識別ができます。ToF方式では、外部光や別のLiDARセンサーの光を受信してしまった場合でも自分が照射したレーザーとの識別が難しくなりますが、FMCW方式では外部ノイズが入っても周波数と比較することでノイズを識別できるのでノイズに強くなります。
3.LiDARセンサーの構造
LiDARセンサーは、周囲にくまなくレーザーを照射することで3次元の情報を取得します。周囲に広くレーザーを照射するための構造として、射出部分を機械的に回転させる回転式と可動部分を持たないソリッドステート式に分けることができます。
(1)回転式
回転式はその名の通り、モーターやミラーを回転させることでレーザーを360度の方向に照射することが可能な構造です。初期のLiDARセンサーから採用されていた構造なので実績が多く信頼性のある構造といえるでしょう。
しかし、機械的な回転構造を持っているため小型化や軽量化が難しいことや、設置場所が限定されるといったデメリットもあります。また、回転部分が故障の原因となってしまうので耐久性も低くなってしまいます。
(2)ソリッドステート式
ソリッドステートとは「固体状態の」という意味で、機械的に可動部分を持つ装置の対義語として使われています。LiDARセンサーにおけるソリッドステート式でも回転式と異なり可動部分を持たない構造です。
ソリッドステート式では、1台のセンサーでは360度の測定が出来ないので、複数のセンサーを使用することで測定範囲をカバーしています。ソリッドステート式は機械的な可動部分がないのでセンサー自体を小型化でき、スキャン速度や応答性、耐久性も高くなります。
ソリッドステート式のスキャン方式の1つにMEMS(メムス)式があります。MEMSはMicro Electro Mechanical Systemsの略で、「微小電気機械システム」と訳されます。MEMSは機械要素部品やセンサー、アクチュエーター、電子回路などを1つの基板上に集めたものを指します。
MEMS式のLiDARセンサーでは、コイルや磁石などの電磁式のMEMSミラーでレーザーを走査させます。MEMS式は小型で高速のスキャンが行える一方で、微細な構造をしているので物理的な衝撃に弱いというデメリットも持っています。
4.LiDARセンサーの活用例
LiDARセンサーは1960年代から地形調査などに活用されている歴史あるセンサーの一種です。近年では、自動運転やロボット技術など幅広く活用されています。
(1)運転支援システム
従来の運転支援システムでは、カメラと電波を用いたレーダーを用いていましたが、カメラによる画像識別では正確な位置や形状の判定は困難です。また、暗がりや逆光などで精度に影響が出てしまいます。電波を用いたレーダーは反射しにくい物体、サイズが小さい物体の検知が難しいという欠点があります。
それらの欠点を補うことが出来るのがLiDARセンサーです。特に自動運転システムにおいては、前方の車や歩行者の情報など、周囲の状況を正確に把握する必要があります。LiDARセンサーの正確な3次元測定能力によって安全な自動運転技術が開発されています。
(2)スマートフォン
近年では、スマートフォンによってはLiDARセンサーを搭載しているモデルがあります。
写真アプリでは暗い場所で素早いオートフォーカスが可能になったり、カメラを用いて被写体の大きさや被写体までの距離を測定することもできます。また、AR(拡張現実)を用いて家具の配置をシミュレーションすることもできます。
(3)ロボット分野
飲食業界の自動配膳ロボットや物流業界の倉庫でのピッキングの自動化などのロボット分野でもLiDARセンサーが活用されています。
配膳ロボットや倉庫でのピッキングロボットは、お客様や他の従業員、ロボットのさまざまな動きを検知してぶつからないように移動することが必要不可欠です。また、LiDARセンサーを用いることで正確に商品の位置を識別して効率的にピッキングすることも可能です。
掃除ロボットではSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれる自分の位置の推定と周辺地図のマッピングを同時に行うことで一度掃除したところを把握してムダなく掃除できます。
【参考記事】
(4)気象学の大気測定
LiDARセンサーは気象学でも活用されています。
LiDARセンサーを大気中に照射することで、化石燃料を燃やした時などに発生する空気中にある微粒子のエアロゾルや大気成分、雲の状態、風速、温度まで観測することができます。
大気成分を測定することで、温室効果ガスの排出量や火災、湿度などさまざまな有用な情報を得ることができます。
(5)地質学などのマッピング
LiDARセンサーを航空機やドローンに取り付けて上空から測定することで、高精度な3Dマッピングを行うことができます。
LiDARセンサーを用いれば、立ち入り困難な土地のマッピングも可能です。航空機の上からでも詳細なマッピングが可能なので、氷河の状態の観測や洪水リスクの評価などに活用されています。
(6)農業
LiDARセンサーを活用して農地の植生エリアのマッピングや正確な地形の測定、集水エリアの特定をすることができます。
農地のマッピングをすることで、農地の斜面と日照時間をあきらかにできます。これらの情報をもとにして作物の収穫量を最大化する効率的な肥料の使用方法の判断材料にできます。
5.LiDARセンサーの課題
高精度の3次元マッピングを行うことのできるLiDARセンサーですが、解決するべき課題もあります。本章では、LiDARセンサーの抱えている課題について解説していきます。
(1)LiDARセンサーが高価である
LiDARセンサーにも数万円程度の低価格のものもありますが、高性能のモデルでは数百万円する非常に高価なものとなっています。これはカメラや電波を用いたレーダーと比較しても高価であるといえます。
特に自動車の運転支援システムで安全に使用するためには、高性能モデルを使用しなければならないため、LiDARセンサーの低コスト化が求められています。ただし、今後LiDARセンサーの必要性が高まることで競争が激化し低価格化・高性能化が進んでいくものと予想されます。
(2)物体によっては検知しづらいものがある
LiDARセンサーは、対象物にレーザーを照射して反射して戻ってきたレーザーを検出することで対象物との距離を測定する技術です。そのため、対象物が光を反射しにくい表面状態であったり、光を透過してしまう素材の場合は検出精度が低下してしまいます。
検出精度が低下する対象物の例としては、光を吸収して反射率が低下する黒い対象物や、カーブミラーや鏡面塗装された車両など鏡面反射するものです。また、ガラスはレーザーを透過してしまい反射光の検出が難しくなります。
(3)データ量が多くなる
LiDARセンサーは、高精度のマッピングを行うので短時間に大量のデータが作成されます。そのため、大容量のストレージや高速処理のできるCPUが必要となります。大容量のストレージや高性能のCPUは、それ自体が高価になるのでLiDARセンサーのコストに加えてさらにコストがかかってしまうことになります。
また、高精度の3Dマッピングを行うためには高い負荷がかかるので、消費電力も大きくなってしまいます。高い負荷がかかることでLiDARセンサー自体の発熱も問題になります。場合によってはセンサー温度が10℃以上上昇することもあり、LiDARセンサーだけでなく周辺機器の故障のリスクが高くなることがあります。
(4)気象条件に影響を受けやすい
LiDARセンサーは、レーザーを用いて対象物との距離を測定しているので悪天候時に測定精度が低下するというデメリットがあります。
雨や濃霧、雪などの気象条件下では 大気中の水分子によってLiDARセンサーのレーザーが散乱や吸収されてしまうため測定精度に影響が出てしまいます。近年では、アルゴリズムを用いて雨や霧、雪の条件下でもLiDARセンサーの精度を上昇させる取り組みが進められています。
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