産業用ロボットと協働ロボット | 特別教育やリスクアセスメントを解説
産業用ロボットを導入する際は、「産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育」という資格が必須です。この資格は労働安全衛生法で定められており、産業用ロボットに関わる作業員は受講が義務となっています。
一方で、産業用ロボットと区別がわかりづらい「協働ロボット」と呼ばれるものもあります。
本コラムでは産業用ロボットの運用で必須とされる特別教育と併せて、協働ロボットやそれらのリスクアセスメントについてもまとめました。
ロボットを安全に運用できるよう、ぜひ参考になさってください。
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目次
1.産業用ロボットと協働ロボットの法律と資格
最近では産業用ロボットの導入が非常に進んでおり、あらゆる業界で目にすることが増えました。しかし導入と同時に資格取得の必要性があるため、資格の詳細について知識を得ておく必要があります。
ここでは産業用ロボットの資格そのものや、必要な場合・不必要な場合についてご紹介します。
(1)産業用ロボットの資格とは
産業用ロボットの資格とは、労働安全衛生法によって定められた「産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育」を受講することで取得できる資格のことです。
(2)産業用ロボットの資格が必要な場合
直接的に産業用ロボットへ関わる作業員のみならず、間接的に関わる作業員も、その取得が必須となっています(参照:労働安全衛生法・労働安全衛生規則 第一編 第四章 安全衛生教育)。
この法的根拠は、別のコラム、「産業用ロボットの特別教育とは何か?法律体系と教育内容や費用を解説」、に詳しくその体系を記載していますので、参考として下さい。
近年では産業用ロボットの普及に伴い、多くの現場で導入が進みました。人と協同して作業を行う産業用ロボットは、事故を防げるように緩衝材や事故防止システムが組み込まれています。
しかし、以下のグラフのように製造業でははさまれ・巻き込まれの事故が多く、出力が高い産業用ロボットの場合、万が一はさまれたり巻き込まれたりすると甚大な被害が出ます。
引用:https://www.jisha.or.jp/shokucho-kojo/online/pdf/a2.pdf
産業用ロボットの資格取得は安全確保だけではなく、労働災害を防止するため、法律が規定する資格です。リスクを軽減し、事故を未然に防ぐ意味でも、事業者は必ず産業用ロボットの業務ができるように特別教育の漏れがないように管理する必要があります。
(3)資格不要の産業用ロボットがある?
結論から言いますと、産業用ロボットの資格取得は必須であり、例外はありません。
出力が80W未満のロボットは、資格なしで運用可能な時期がありました。産業ロボットの特別教育が加わる前のころです。
80W未満のロボットは「協働ロボット」と呼ばれ、人と協同作業を行う前提で作られています。
人と協同することが前提となっているため、出力や事故防止システム、緩衝材といった工夫から安全性が高くなっています。それが特別教育から外れた理由でしょう。
しかし、その後に大臣からの告示・通達によって、見直しがなされ、協働ロボットも産業ロボットと同様になりました。
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(4) 産業用ロボットに関する法律体系と協働ロボット
➀ 産業用ロボットに関する法律と協働ロボットの扱い
以上を整理するために、産業ロボットに関する法を整備してみましょう。
図1に体系をご紹介します。
産業ロボットの定義や特別教育の義務化が安衛則36条から39条で規定されました。
また、図1の労働省告示51号で、その右側に産業ロボットに含まれないものとして➀~③が規定されました。
② 定格出力80W以下で駆動する機械とはー協働ロボット
定格出力80W以下で駆動する機械は、産業ロボットではなく、単なる機械となりました。協働ロボットという言葉で、いかにも産業ロボットのような名前としたのは、メーカーの戦略ではないでしょうか。
法的には産業用ロボットではありません。
ただし、協働ロボットが80W以下の動力で動く機械といえども、設備を新規に採用したときにはその機械が労働者に危険を及ぼさないかどうかを調査する法的な義務が事業者にはあります。
③ リスクアセスメントの実施
リスクアセスメントを実施し危険がないと判断されると、80W以下の協働ロボットは保護柵のような保護なしで動く単なる機械として、法的に認められます。
しかしリスクアセスメントの結果、もし労働者への危険があると判断された場合でも、産業ロボットに分類されるのか、特別教育の義務が発生するかも、法的にはあいまいです。特別教育を受けなくとも、今の法的には、違反にはなりません。
協働ロボットが危険はないとはいえ、産業ロボットに近いロボットという評価があった場合、事業者としてどう対応するのかは判断がわかれるところかもしれません。
④ 協働ロボット
そのような、協働ロボットの規制が、告示1224号で出されました。
協働ロボットの範囲は、80Wに関係なく、産業用ロボットでも行えるようになってきたからです。
協働ロボットは、ISOで安全に対しての備えるべきことを規定しています。
もともと、ISOでは協働ロボットに出力制限(日本のような80W以下は機械というような)はありません。
ただし、この告示でも、80W以下の協働ロボットの位置づけは明確になっていません。
しかし、ISO10218(JIS B 8433-1と8433-2)で、協働ロボットの安全対策・構造などが規定されています。
JISでは、協働ロボットは、「限られた協働作業の空間で、人と直接的に相互に作用しあうように設計されたロボット」と定義されています。
告示では、ISOに従うことを定めています。
産業用ロボットや協働ロボットの事例については以下の動画を参考になさってください。
産業用ロボットのセキュリティリスク
引用:https://www.youtube.com/watch?v=Viq3ZXI0ECE
協働ロボット適用事例
引用:https://www.youtube.com/watch?v=7-4na_46eM0
2.産業ロボット | 協働ロボットとして使用するためのリスクアセスメント
産業用ロボットの資格を取得するためには、特別教育を行える人が規定された内容と時間をかけて教育をし記録として残せば、いわゆる資格となります。
社内に特別教育を行える人がいなければ、下記の機関で特別教育を受ける必要があります。
この特別教育については、前のコラム「産業用ロボットの特別教育とは何か?法律体系と教育内容や費用を解説」で、受ける場所、コスト、講義主体について詳述していますので、ご覧ください。
この章では、告示1224号に伴う、リスクアセスメントについて解説します。
告示1224号では、産業ロボットを協働ロボットとして動作するための、様々な規定を設けています。
その1つがリスクアセスメントです。協働ロボットが一緒に作業する労働者に危険を及ぼさないことを評価し、評価でリスクのある項目は、改善して評価で良しとなるまで繰り返します。
図2にリスクアセスメントの実施手順を紹介します。
リスクアセスメントは、事業主、メーカーあるいは設置者が責任者となって進めます。
リスクアセスメントの際には、メーカーが独自に設計時の仕様と評価のファイルと宣誓書を提出することになっています。
図3にリスクアセスメントの実施例のイメージを紹介します。
図3は、危険の発生確率を確度1~5で表し、危険にあった度数(図では負傷)を1~5で分けて、2つの事象に合うリスクを1~5で表しています。
図3では度数を取りましたが、点数として取って、合計点の大きい方からリスクが大きくなるやり方もあります。他にもマトリックス法など、さまざまなリスクの取り方があります。
このようにして、協働ロボット(他の作業用ロボットも同じです)のリスク評価がなされ、危険のリスクのなくなる対策を講じて、業務で使われることになります。
このリスクアセスメントは、産業用ロボットに限ったことではなく、あらゆる産業で新しい設備の導入時には、実施されるように法令で決まっています。
3.産業ロボットを協働ロボットとするための条件
この章では、協働ロボットについて、告示1224号と関連する法規に合わせて解説します。
協働ロボットは、図4に示すように、労働者と共通の作業空間を持って、共同作業に当たります。
図4にある協働作業空間で、共同作業が行われますが、協働作業空間には、人の出入り、エリアに指一本入ることも許されないために、次の対策が必要です。
・人が物理的に出入りができない設備の設置
・人が入ろうとした場合、警報と、作業の停止
・警備員の配置
協働ロボットとの作業エリアの製作には、ISO10218-1,-2で産業ロボットの規格が決められて、告示1224号でも参考にすることが規定されています。
なお、ISO10218-1,-2は、それぞれ、JIS B 8433-1と-2に協働ロボットの規格として出されています。
JIS B 8433-1では、協働ロボットは、産業用ロボットの1つとして見なされ、80Wの動力制限はありません。
協働ロボットのJISによる定義は、次となります。
(a) 協働ロボット
規定された協働作業空間で、人間と直接的な相互作用として設計されたロボット。
(b) 協働作業空間
ロボット作業上の安全防護空間内で、生産作業をロボットと人間が同時に遂行できる空間。
このコラムは、協働ロボットについてのコラムではありませんが、最後に協働ロボットの運転要求事項を記載します。協働ロボットにはリスクアセスメントで危険がないようにすると同時に、次の運転条件を満たすことが必要です。
1. 協働運転中であることを示す視覚表示を備えます。
2. 次の4つの機能のうち、1つ以上の機能を有する。
➀ 安全適合の監視停止
人が協働作業空間内にいるときは、ロボットは停止させます。
② ハンドガイド
ハンドガイド装置がある場合、エンドエフェクタの近くに配置し、非常停止とイネーブル装置を持つ。
③ 速度及び間隔の監視
決められた速度か間隔の維持に障害が検出されたときは、保護停止させます。
④ 本質的設計または制御による、動力および力の制限
制限値を超えた場合は、保護停止させます。
なお、協働ロボットについては、別のコラム「協働ロボットとは?定義や導入事例、厳選メーカー3社を紹介」に記事があります。参照して下さい。
協働ロボットには法律での定義はありません。
協働ロボットを運用するための、規則があるだけで、また、80W以下に限らず、産業ロボット全体に協働ロボットが存在します。
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4.特別教育以外のロボット関連資格について
産業ロボットの資格には、特別教育の資格以外にも、次のようなものがあります。
いずれも民間の資格で、国が発行する免許のような資格ではありません。
なお、特別教育については、コラム「産業用ロボットの特別教育とは何か?法律体系と教育内容や費用を解説」で、詳述しています。
ロボットの資格には次のようなものがあります。
1) ロボットSI検定
ロボットシステムインテグレーション(ロボットSI)を行う上で必要な知識の習得レベル・技術の修熟レベルの測定を行う検定試験です。
検定1級から3級まで、経験によって受験資格が異なります。
https://www.si-kentei.com/feature.html
2) ロボットセーフティアセッサ
ロボットシステムのオペレーションやインテグレーションの安全知識力と能力を認証するロボット安全分野資格の認証制度です。
https://www.japan-certification.com/certifying-examination/saftiasessa/about/
3) ロボット検定
メカニカルスキル、エレクトロニクススキル、人工知能プログラミングスキルなどの分野の知識や技能を評価・判定するロボット検定です。
https://robogiken.jp
4) ロボットインストラクター資格認定試験
ロボットインストラクター資格認定試験です。
http://www.joho-gakushu.or.jp/approval/robot_inst/robot_inst.html
5.産業用ロボットの特別教育を受講させるときの注意点
事業者が産業用ロボットの特別教育を受けさせようと思った際、気をつけるべきポイントがあります。
- 安全意識を高めた状態で受講してもらう
- 理解できない点は分からないままにしておかない
特別教育は、受講すれば修了証がもらえます。ただし、この修了書はメーカーが講習を行ったという証でしか意味がありません。
講習を受けて、社内の受講記録に受講した科目と内容、日付と氏名を記録した決められた年月保存したところで、法的に意味のあるものとなります。
しかし事故を未然に防ぐのが目的なので、緊張感を持って受講してもらわなくては意味がありません。事業者は事前に作業者の身を守ること、正しい運用を行うために受講する旨を伝えておくと良いでしょう。
同時に実際の作業者は危険と隣り合わせになる状況もあるので、理解できないまま特別教育を終わらせないようにしてください。実際の作業を行うことになる前提もしっかりと伝え、できるだけ現地で理解できるようにするのがベストです。事業者もしくは監督者から受講予定者に、特別教育の背景を事前に伝えてあげると良いでしょう。
また事前に産業用ロボットの知識を得ておくと、資格取得の際はスムーズに知識が入ります。
本メディアでも産業用ロボットの基礎知識についてまとめた記事がありますので、こちらも参考にしていただくと良いでしょう。
6.産業用ロボットの資格取得に関するご相談はFAプロダクツへ
産業用ロボットは非常に効率的な運用が可能になる反面、間違った運用をしてしまうと事故へ繋がる恐れもあります。
資格を取得する際は事業者・監督者からも危険性について伝え、実際の運用時も事故が起きないように細心の注意を払うようにしましょう。
FAプロダクツでは、産業用ロボットの導入支援から特別教育の講習も実施しています。ぜひお気軽にご相談ください。
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